New!第39回
「九寨溝・黄龍」
中国の景勝地、九寨溝と黄龍を訪れた。どちらもチベット人が古くから住んでいた地で、両地は四川省北部のチベット人自治区にあり、1992年、ユネスコの世界自然遺産に指定されている。日本中で雨が続き洪水や氾濫が各地を襲った九月下旬、大陸の奥深く日本より低緯度のこの地は時々雨もあったが、穏やかな天気だった。
成田から四川省の中心成都へ飛び、ここを拠点に現地へ赴く。国の内外から多くの観光客を集める人気の名所で、オーバーツーリズムとならないよう、一日の来客を4万1千人に限るなどの施策を設けている。それでもかなりの人数だ。
まず九寨溝。寨というのは現地語で村、溝は谷で、谷あいの九つの村に広がる池や湖が見どころ。標高三千メートル前後にあるが、温暖な地のためか樹木の成育がいい。現地の人たちが木を伐るとき美しい景色に気づいたのが世に知られるきっかけとなった。どの村にも金箔で覆われたチベット寺院が鎮座している。観光バスにはチベット衣装の制服をまとった若い女性のガイドが同乗したが中国語しか話せないため、日本語の巧みな中国人通訳に頼った。女性ガイドの補助は現地人の雇用促進策によるのだろう。家族同士ではチベット語を話しているという。
Y字上に点在する村のあちこちに水たまりがあり、雨上がりに雲がのぼっていく後ろの山をその水鏡に移した姿は、日の当たり方で色合いが微妙に変わる。10メートルを超える横幅いっぱいに水を落とす滝の名所もある。こうした場所をまわりながら絶景を楽しんだ。
この日は現地に滞在し、郷土料理や菓子を味わう。いろいろなキノコを集めた鍋や、サンザシの薄甘い菓子が忘れがたい。夕べ、地元の劇場でチベット民族舞踊のショーを見た。彼らの宗教観を反映した五体投地や輪廻転生を象徴するマニ車などが、舞踊と美術、映像、音楽などでショー化されたエンタテインメントで、全体は北京在住の世界的な舞踊家の演出によっている。
翌日、もう一つの目当ての地、黄龍へロープウェイと電気カートで移動。乗り場に向かう途中、バスが突然渋滞に巻き込まれ、しばらく動く気配がない。どうしたのかと思っていると、車内のどこかから「ヤク」という声が聞こえた。運転席の窓越しに先を見れば、牧夫に従ったヤクの一隊が道を通り過ぎるのを渋滞の車が待っている。こちらに向かってくるヤクの一団をカメラに収めた。
終点の近く、道教の黄龍古寺という名刹があって、土地の人が参拝している。見どころは寺の向こう、石灰岩の棚田に水をたたえた池の連なりだ。雨水や湧水を上下左右に連なる小さな池が受け止めているところに日が射すと、ここも水面が光に応じた美しい色合いを見せる。五彩池と呼ばれるこれらの池をいくつかの展望台から望みながら、木道に沿って進む。3千5百メートルの高地を歩くのは、空気が薄いため息切れを起こしやすい。医療用の酸素ボンベを時々吸いながら木道を上下したが、高山病を発症したか、動けなくなっている観光客もいた。
帰路の車中、バスが止まった休憩所の近くで面白いものを見た。小川の水で水車を回し、その動力を金属製の大きな円筒でできたマニ車に伝えて、経文の書かれた筒を回転させている。AIの時代、自然力を利用した自動化の工夫に思わず笑みがこぼれた。
(2026.9)
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