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コラム

知財風土記

第13回 
「オーランド」

 今年の国際商標協会(INTA)の総会は、銃社会アメリカの悲劇が突発する直前の5月下旬、フロリダ州のオーランドで開かれた。悲惨な事件がいずれ起こるとは知る由もない世界中の商標関係者が、INTA史上最多という1万人以上も参加して、無事に行事を終えている。
 オーランドは緑と湖が多く、ディズニーワールドやユニヴァーサルスタジオを擁して、町全体にテーマパークの趣がある。博覧会場はアメリカ第2といわれる巨大な建物で、端から端まで歩き通すのも容易でない。この会場で、四日間にさまざまな催しがあった。
 会場の横をインターナショナル・ドライブという街路が通る。ホテルやレストランがそれに沿って並び、車道のわきの歩道には街路樹が木陰を投げかけていて、散策に快い。その道を歩いていると、奇妙なビルが目に入った。まるで地震の被害によって土台から傾き、ひびが入ったような建物が、この目抜き通りに突然現れるワンダーワークスの傾いた建物。廃墟に見えて、実は新築の建物なのだ。ワンダーワークスという表示から、わざと壊れかかったように建てた見世物小屋と知られる。ずいぶん酔狂な、と思ったが、この建物の不安定さには、繁栄の中にあるアメリカの危うさが、無意識のうちに反映されているのだろう。
案の定というべきか、その半月後の6月12日未明、オーランドの街なかのゲイが通うナイトクラブで、銃の無差別乱射事件が起こる。米国の銃犯罪史上最悪といわれるもので、約50人が死亡した。警察や米連邦捜査局(FBI)によると、犯人はイスラム過激思想に傾倒していた可能性があり、テロの疑いで捜査を続けているが、動機や背景は依然不明という。
   一方、事件に先立つINTAの方では、興味深い議論が行われている。電子商取引で販売される商品がにせものであった時の商標権の行使、中国で深刻な外国で知られた商品の先取り商標登録、言論の自由と商標価値棄損のバランスなどだ。日本からも特許庁や企業の知財担当者が商標の保護状況について、発信した。
 会場内で行われる特許事務所や国際機関の展示は、各ブーツがお土産などのグッズを用意して通りかかる客を引き付けようと懸命で、中でも中国とインドの事務所が、力の入れ方で際立っている。隣に用意された談話コーナーは、面会相手と新しい関係を築き、また旧交を温める場として大賑わいだINTA談話コーナーのにぎわい
 さて、会議の合間、気になっていたワンダーワークスの中に入ってみた。一種のサイエンス・ミュージアムで、錯視を利用しただまし絵の数々、地震の体験コーナーや宇宙飛行士の訓練用マシン、帰還するカプセルの展示などもあって楽しい。私もカプセルに身を横たえて、しばらく宇宙飛行士になった気分を味わった。
 ところでINTAの会期は日本で開かれた伊勢志摩サミットの直前で、そのあとオバマ米大統領は広島を訪れるのだが、これに対する賛否両論が新聞の紙面をにぎわしていた。USA TODAY紙はその訪問に先立って、読者の声を載せている。ヒロシマ訪問は当然、謝罪をしないのも当然という声がある一方、歴史的な文脈を無視したナイーブなものという厳しい批判も対置されている。商標など知的財産の保護では、世界的な合意が形成されやすいものの、思想や信条ではそれが容易でないことを思い知らされる機会となった。
特許や商標などを各国が対等な立場で保護するパリ条約の同盟は、1世紀を超える制度の調和に向けた歩みを続けてきている。ところが戦後の敵対感情や宗教がらみの対立はなかなか解消されないどころか、新たな対立を生み出してもいる。オーランドにいながら、互いに話の通じ分かり合える関係がいかに貴重かを、改めて思った。    (2016.6)

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