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コラム

知財風土記
第7回 
「チェンマイの薬草」

APAA(アジア弁理士協会)の会合で、10月下旬、タイの古都チェンマイへ行ってきた。暑い気候の土地とは言っても日陰は涼しく、昨年の洪水騒ぎとも無縁で、滞在をゆっくり楽しんだ。
開会式にはWIPO(世界知的所有権機関)のフランシス・ガリー事務局長がビデオによるメッセージを寄せ、統計を示しながら今やアジアが知的財産の保護分野では世界で最も重要な地域になったと持ち上げた。APAAはアジアをメンバー国としているほか、オーストラリアやニュージーランドも正式な加盟国になっている。これらの国の弁理士など実務家が出席しているのはもちろんだが、欧米からオブザーバーが大勢押し寄せていたのが注目される。ロシアやバルト3国など、WTOへの加盟によって世界経済の枠組みに入った国々もやはりオブザーバーを送り込んでいて、ここでもアジアの知的財産を活用しなくては今後の発展が望めないことを示していよう。
アジアの知財保護では、日本に続き中国、韓国が後を追い、その他の国も次第に実力をつけてきている。知財保護の弱い国にはアメリカが優先監視国として圧力をかけたり、先進国からの援助で保護の態勢が整えられてきたことが背景にあげられる。
シンガポールのようにPCT(国際特許出願)の報告書を追認するだけだったところが自前の実体審査体制を築こうとしていたり、日本のように知的財産の専門裁判所を置く動きもタイ、マレーシア、パキスタンなどに広がってきている。そのほかアメリカが特許を先願主義に切り替え、各国と自由貿易協定を結ぶことによって、世界全体が知財保護の分野でも調和してきているのが見て取れた。シンガポールがデジタル著作権の保護を強化して違法なコピーの氾濫を抑えようとしたり、フィリピンがマドリッド議定書による商標の多国間制度の運用を始めたり、地理的表示の保護を強化しようとしているなどの動きも、アジアが世界と連動していることを示すものだろう。
専門委員会の議論は、知財保護が公衆衛生や環境問題を意識せざるを得ない時代に入ったことをうかがわせた。オーストラリアでは喫煙の害を防ぐため、登録商標の包装への使用すら制限する判決が出たことが紹介されている。また、ニュージーランドではマオリ族の尊厳を守るため、彼らの伝統的な知識や標章を使用する特許、商標などの出願は、特許庁が登録の可否について、マオリ助言委員会の承認を得る制度となっていることも報告にあった。
診断方法をめぐるアメリカの特許性否定判決をどうとらえるかの議論も面白かった。自然法則そのものや、技術的特徴のないものに特許を与えるべきでないという基本は各国共通ながら、新技術の発展に特許の道を開いておきたいとするオーストラリアやシンガポールの立場も説得力があった。iPSの発明と山中伸弥教授のノーベル賞決定に沸く日本はiPSの利用による再生医療を活発化させようとしており、知財保護の観点からは従来基準を見直す必要があると思われる。
会期中、チェンマイ郊外の熱帯雨林を訪れる機会に恵まれた。英語を話すツアーのガイドと熱帯雨林を案内する現地のガイドに導かれ、緑の濃い雨林に入る。野生のバナナが蓄えた雨水を放出するところではその水を手に汲んで飲み、蛙や珍しい野鳥の鳴き声に満たされた山道を登っていく。倒木を伝う蟻の長い行列が一直線に黒く際立っているところもある。現地ガイドが指差す木の幹を見ると、樹皮がなたでそぎ落とされた跡がたくさんついている。ツアーガイドによると、これは出産後乳の出が悪い母親に煎じて飲ませると乳が出るようになるので、現地の人たちが取っていった跡だという。そのほか栗ほどの大きさをした甘い果実や、地上に顔を出した黄色い大きな花芽のようなものも教わった。花芽は石灰と混ぜて口に含むと血のような色を出す嗜好品になり、インドや東南アジアに広がっているようだ。いずれも初めて見るものばかりで、この地が薬草や有用植物の宝庫であることを知る。
中国、インド、韓国などでは伝統的な知識のデータベース化が進行している。これらを利用した特許発明が伝統社会の生活を脅かすことはまずないだろうが、発明が生む利益のなにがしかがその地に還元される仕組みはやはり必要だと思われる。タイでは今春、首相府の中の知的財産保護審議会が、WIPOなどの議論に合わせ、伝統的知識の保護、生物資源に由来する知財保護のあり方の検討を始めている。
雨林ツアーからの帰路、手折ったばかりの薬草を手にした老人が山道を下って行くのが車窓から見えた。この地の人たちが自然の恵みを得て日々暮らしているのを身近に感じた一日だった。 (2012.11)

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