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コラム

知財風土記

第12回 
「欧州の一体性」

8月の下旬から9月の初めにかけて、フランスとスペインで、付き合いのある特許事務所をいくつか回ってきた。パリは暑い日があるかと思えば雨が降って肌寒い日もある陽気で、ボードレールの「秋の歌」ではないが、「さらば、短かすぎた我らが夏の強い光明よ」といったところか。
 日本の報道や機中で目にした新聞で、中東やアフリカから押し寄せる難民の問題が欧州を揺るがしていることを知っていたが、乗り物に乗っても町を歩いても、パリは外国人の方が土地の人より目につく。なんとなくヨーロッパが大変動を前にしているのではと感じさせる。大量の移民や異民族の流入、侵入は、地続きのヨーロッパにしてみればゲルマン民族の移動など、歴史のどの時点にもあったことで、いまさら驚くまでもないのかもしれない。ルモンドの投稿には、ナチスを逃れて欧州を脱出したユダヤ人のショア―と比較しながら、難民受け入れに理解を求めるものがあった。しかし移民の受け入れでは国ごとに温度差があり、理屈では分かっていても、いきなり大量に押し寄せられては困る、という本音はどの国にも共通する。経済の停滞と並んで、一朝一夕に片付く問題ではないだろう。
 ところで知財の側面はどうか。欧州の一体性は見かけだけで、欧州統一特許制度も、始まりそうでこれがなかなか始まらない。自国の特許庁や裁判所がいらなくなる改革となると、影響を受ける国にはそれなりの保障が必要で、料金収入を加盟国にどう配分するか。この話し合いが、難民受け入れの割り当て同様、合意するのが難しい。
 日本から欧州への特許出願では、現行の制度が続くと、どの国で最終的な権利を確立するかが、費用からみて重大な関心事となる。特許権は模倣による侵害の抑止力になるとしても、その権利が確実に行使できなければ意味がない。ところが裁判所の事件への対応力、証拠集めの容易さなど、各国ごとに差異があり、ここでも欧州は決して一枚岩でない。民事上の証拠集めがセジ・コントルファソン(侵害差し押さえ)と呼ばれる方法で容易なフランスは、権利行使がしやすい国だろうが、こうした制度が他の国に広がる気配はない。また、言語によっては裁判費用が膨大となる国もあるようだ。知財の欧州統一裁判所はこの問題を解決に導く期待が持てるが、発足にはまだ数年かかるだろう。
 スペインの事務所は、言語を共通にしている中南米への手続きも代行していて、両方を視野に置くならば、そこの事務所を経由するのが費用削減になる可能性がある。ところでバルセロナの事務所を訪れた機会に、話題のカタルニア独立について聞いてみると、そんなことができるわけはないと、言下に否定された。タクシーの運転手もスペインの地方出身で、この町が好きだしカタルニア語は理解できるが、話したい言葉ではないという。住民は案外さめているのだろう。
 バルセロナのシンボルといってもいいサグラダ・ファミリア(聖家族教会)に足を向けた。雨の日にもかかわらず観光客が堂内に入るのに行列を作っていて、2時間待ちだという。結局中には入らず、ゆっくり建物の周りを一周しながら、細部に見入った。この町出身の建築家アントニ・ガウディの設計で19世紀に着工され、1世紀を経た今もまだ工事が続いている。教会を囲んでトウモロコシのような尖塔がそびえ、その高さにも匹敵する高いクレーンが資材を釣り上げていく。そこから、建造が今も行われていることがわかる。高所で働く職人の姿も見えた。教会の一側面には鉄筋コンクリートの柱が立ち上がっていて、むき出しの鉄筋はまだ上に伸びていくのだろう。サグラダ・ファミリアガウディが19世紀にこの教会を構想した当時、鉄筋コンクリートはなかったはずだから、3世紀にわたる工事期間中に建築の工法まで変わってきている。ゴシック風であったり、バロック風であったり、またアール・ヌーヴォー風であったりしながら、それでも全体としての統一感がある不思議な建築物だ。ガウディの特異な意匠にも驚くが、この建築を持続していく土地の人の意志にも感じざるを得ない。
 ガウディが手掛けた広大なグエル公園も訪れた。肉感的なコンクリート柱が脇に立つ歩道を歩む。彼が20年暮らしたというおとぎの国の家のような建物もあり、現在はガウディの家博物館となっているガウディの家博物館。その隣からは遠く地中海が望まれ、一瞬、旅の疲れを忘れた。
 欧州は複雑だ。構成国同士の反目、分離独立の動きや、他からの侵入があるにしても、ヨーロッパが包容力と持続力を持っている限り、変容はしながら容易に解体することはないだろう。そしてその確認が、歴史を作っているように見える。  (2015.9)

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