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コラム

知財風土記

第16回 
「スイス東西」

 スイス国内の各地を移動する企画展「ローヌ川沿いの階段」がチューリッヒに移ったのに合わせ、今春に続いてスイスを訪れた。自作ビデオ「時の階段」がここでも上映され、そのオープニング・パーティーに招待されたのだ。主催はスイスのエーデルワイス文化交流基金。
 世界遺産として登録されている邸宅ヴィラ・パトゥンバウが会場で、旧古川邸や岩崎邸のように実業で名を成した人物の屋敷だったという。このパトゥンバウは19世紀から20世紀にかけてサラワクでたばこの農場を経営して財をなし、豊富な資金を家と庭園に注ぎこんだ。ヴィラ・パトゥンバウ洋の東西の様々な様式を取り入れて、自己の趣味に忠実な家屋敷を作ったらしい。
 「時の階段」には邸内3階の一室が与えられ、プロジェクターで繰り返し上映が行われたほか、9月1日のオープニング・パーティーに来た大勢の客を前に、関連のパフォーマンスを演じる機会があった。
 「時の階段」は、文字通り階段という上下の移動を主眼にする映像を集めたものなので、パフォーマンスはこれを補完する意味で左右の横行を基軸にした。ヴィラ・パトゥンバウの入り口わきにある一室の壁にプロジェクターからビデオの映像を写し、私は暗闇の中を画面に向かって角笛を吹きながら接近していく。室内にはビデオの音声も合わせて流れている。このビデオは以下のユーチューブで見ることができる。
 https://youtu.be/DuOVRwtP4m8   丸山 亮 ビデオ作品 ‘’A Travers’’ (横に)
 投射画面の右側から次第に私の影ができるように画面との干渉を続け、途中で、手にした角笛を様々な色に発光するランプに持ち代える。光を画面の左右に横行させた後、このランプを床に置いて、今度は象がぶら下げる木のベルを手にした。画像の正面に不動のまま向き合い、かすかにベルを鳴らし続ける。ビデオの映像とともに聞こえていた音がやんで静寂が来たところで観客に向き合うと、部屋を満たす熱い拍手に包まれた。立ち見を含む室内いっぱいの人からの励ましだ。司会者による紹介があって、パフォーマンスを終了。こうした映像と音と身体をからませる上演をビデオ・ミュージックシアターと呼んで、世界各地で繰り返してきたが、ここチューリッヒでは、観客の一人から、構成に建築的な配慮を感じるといわれた。映像や身体の移動が立体的に感じられたようで、私の意図が伝わったことになる。
 邸内の別の一室では、スイスで難民の受け入れを住民がどのように感じているかを見せる常設展示もあった。ヨーロッパを揺るがせている難民問題は、この国とも無縁ではない。
 チューリッヒに先立つ1週間前には、アルプス山中のヴァレ州にある町ロイクに滞在した。この州はフランス語圏に重なるが、ロイクではドイツ語を話す人も多い。ロイクはドイツ語で、フランス語ではロエシュと発音している。谷底のローヌ川を見下ろす小高い丘の斜面にあり、ホテルのわきにはブドウ畑が広がっている。かなたには雪を頂いた山脈が見える。ここで建築、音楽、エコロジーをテーマにした国際会議があり、滞在の目的は、会議でビデオ・ミュージックシアターを上演することだった。招待してくれた主催者の作曲家ピエール・マリエタンとは20年来の友人だ。
 会場となるロイクのチャペルは、中世の石造り建築が展示や会議用に転用されていて、室内の片隅には地元の建築家による期間限定の展示がある。私はここで「道程」と題したパフォーマンスを行った。映像は個人の内面と向き合う過去の断章をつないだもので、これに角笛を吹きチベット仏教の鈴を鳴らしながら、映像と身体を平行させていく。ライトアップされたヴィラ・パトゥンバウここでも観衆の反応は強かった。映像と実演の重ね合わせが、特に興味を引いたようで、このやり方を以前の公演で覚えていた当地の美術家が、2年ぶりにシオン市からわざわざ友人を連れて見に来てくれた。これにはスイスにまで自分のおっかけが現れるとはと、我ながら驚いた。ほかにイタリア人の音楽家からも、出身地リミニ市へ公演の招待を受けることとなった。会場で上映された映像の1場面
 この会議では、音をめぐる様々な分野の人の活動報告が興味深かった。放送局の番組制作者イヴォンヌ・セラフィーヌ・シェレールさんは盲人で、盲導犬にひかれて登場。盲人用のパソコンを巧みに操りながら、盲人にとって聴覚がどのように昂進していくかを語った。ナタン・ヴェルヴァル氏とエミリアーノ・バッティスティーニ氏は、共同で、ヴァレ州に根を下ろしたワイン製造現場の音や人声をコラージュした作品を作り、聴かせてくれた。
 夏の終わりの短い滞在ながら、スイスの東西にわたる文化活動の一端に触れることができたように思う。
 (2017.10)

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