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コラム

知財風土記

第23回 
「ダブリンの立場」

 EUを出ていくのか居残るのか、ブレクシットの激論が続くロンドンに渡る前、9月の中旬、ダブリンで数日を過ごした。
 ダブリン空港に着いてすぐ目に入ってきたのは、アイルランド語を先にし、そのあとに英語が続く2か国語表示の案内だった。イギリスの隣国で英語が普通に通じるこの国の第1言語は、まずケルト語起原のアイルランド語だとする強い意志を感じる。
アイルランド語と英語の2か国語表示  入国手続きを済ませ、タクシー乗り場に出たとたん、おお寒い、と身震いした。残暑の日本から一気に晩秋のところに来たのだ。宿に向かうタクシーの運転手が話しかけてきて、雑談となる。ブレクシットで揺れるイギリスをどう思うか、まず聞いてみる。イギリスも民情は苦労が多そうで、こんなことになるのもわからないではない、新首相のジョンソンはどんな決着をつけるのか、いい条件を得るディールが必要だろう、と、もっともな話。市の中心に入り、少し賑わいが見えたが、どことなく寂しさの漂う街並みが続く。
 宿の向かいはダブリンを東西に貫くリフィー川で、対岸には有名なギネスの工場が威容を誇る。徒歩で行ける工場の見学棟を訪れた。バスが頻繁に発着し、入場には行列が必要な、観光名所といっていい。世界一の登録で有名なギネスブックの編集でも知られ、商売が巧みだ。
リフィー川を渡るハーフペニー橋 リフィー川岸にあるギネスの工場
 見学棟は映像や模型を主体に、1階から4階までの巧みな展示で、大麦の収穫から発酵を含む醸造や、製品を収める樽の製造までがたどれる。最上階に着き、展望所からダブリンを見下ろしながら、ふるまわれたギネスのグラスを飲み干した。ソフトな舌触りの黒ビールは、地元で飲むとさすがにうまい。グラスにはアイリッシュ・ハープのマークが印されている。この国民的な楽器は、ギネスのシンボルであるほか、ダブリン市のマークでもある。
 もう一つの名所、ダブリン城も訪れた。13世紀の初め、イングランドのジョン王により創建された城で、以来8世紀にわたり英国植民地支配の本拠地だった。それが100年前の1919年に始まるアイルランド独立戦争によって、帰属を変える。国家行事が行われる王冠の間や応接間と並んで、地味なジェームズ・コノリーの間が目を引いた。ここには独立戦争の武将だったコノリーが負傷してイギリス軍に捕捉され、治療後に、椅子に座ったまま銃殺されたという説明がある。彼が横たわったベッドも置かれていて生々しい。1922年、アイルランド自由国が成立してイギリスの自治領となり、1949年には英連邦からも独立して共和制に移行、という歴史をたどる。
中庭の芝生から見るダブリン城  この地には紀元前5千年の昔から先住民が住み、その石積みの遺跡は今日にも残るが、以来、ケルト人、ノルマン人、イギリス人の侵攻と文化融合を経ている。しかしカトリック系住民が増え、イギリスがピューリタン革命以降、プロテスタント色を強めていくなかで摩擦も生じるところとなり、イギリスを構成する北アイルランドはそれを象徴している。両派の対立抗争が多くの死者を生むほど熾烈だったのは、つい最近までの話である。
 ブレクシットはどんな影響を及ぼすのか、この地の新聞を漁った。北アイルランドの国境管理が難しく、紛争を再燃しかねないというもの、ダブリンにイギリスから送り込まれる積み荷の税関チェックに時間がかかり、それを待つ人のトイレ対策が急務だ、というものまである。合意なき離脱は、深刻な問題を引き起こすだろう。
 夜は、繁華街のパブへ出向いた。カウンターに座ってここでもギネスを注文し、すぐ横のライブ演奏を聴く。ギター奏者が民謡を歌い、フィドルと呼ばれるバイオリンがそこに加わる。知っている歌では客たちも声を合わせ、乗ってくると狭いフロアで自然に踊りだす。隣に立っていた常連らしい客が、どうだ、面白いだろう、というように話しかけてくるが、うなずく以外に返事のしようがない。パブとは結局、男女を含めた常連が談笑する場なのだ。音楽が一休みすると、またざわめきが戻ってくる。こうしたアイルランドの平安が、将来も乱されることのないように望みたい。
 (2019.10)

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